真里菜や薫とさんざんカフェで喋り尽して帰宅した頃には、完全に陽も落ちていた。

いつもと同じように家からは一切明かりを発していない。


一体何日目だろう。


真っ暗な家の中を進み廊下の灯りを点ける。
そしてリビング、ダイニングの部屋の灯りを点けた。

ほとんどそれを家族で使ったことのないダイニングテーブル。
その上にこの日も一万円札が置いてあった。


一体、私一人でどんな高級料理を食べろっていうのよ。


父親は、家に戻って来るたび一万円札を置いて行く。
娘の面倒を一切見ていない分、レストランでも、出前でも、高級惣菜でも、そこに糸目は付けず好きに食べて欲しいという愛情のつもりだろうか。

そんなことであの人の罪悪感を取り払いたくなかった。

だから、私は意地で料理をする。

週に二、三度やってくる家事サービスの人にも、料理だけは絶対に作らせたりしない。
薫達と食べて帰る日以外は、きちんと自分で作って家で食べた。

放ったらかしたままの娘が一人で料理を作り一人で食べている。


アンタがお母さんを追い出して、そのお母さんが作ってくれたのと同じ料理を一人で作り続けている――。


その姿に胸を痛めればいい。後ろめたさで一杯になればいい。


でもきっと、あの人は、私が必死で料理をしていることさえ気付いてない。