好きだと気付いたからと言って何か状況が変わるわけでもない。

河野とは成績があまりに違い過ぎるため、参加している講習のレベルが合うわけもなく、夏休み中いくら学校に通っても顔を合わせられる訳ではなかった。


「また、溜息」


講習の休憩時間に、真里菜にぼやかれた。


「え?」

「だから、一体何回溜息つけばいいのかっていう話」

「溜息なんかついてた?」


自覚もなく溜息をついているらしい。この溜息は、何の溜息なのだろうか。


ーー会いたい。


気付けばそう思ってる。

今思うと、河野の家で一緒に夕飯を食べたことが信じられない。
あれは現実のことだったのかな……。


今じゃもうあまり自信もなくて、机に突っ伏す。

好きって、こんなに落ち着かない感情だったんだ。

これまでの自分を振り返ってみても恋らしいものをした記憶がない。

小学生の時にスポーツの得意な男の子を他の女の子たちと同じように『いいな』なんて思ってみたり、クラスで人気者の男の子をちょっと意識したとか、そんな程度。

中学時代は、勉強しかしていなくて恋なんてする余裕は一切なかった。

高1の時のものは――。振り返って見てもあれは恋じゃない。

今ならそれが良く分かる。