----------何も出来なかった。

オレは何をしに旅館まで美紗を追いかけて行ったのだろう。

和馬から美紗を取り返そうと思っていた。 美紗と和馬の旅行をぶち壊してやろうと思っていた。

だけど、美紗の楽しそうな笑顔を見たら、出来なかった。 すべきでないと思った。

ここのところずっと、険しい顔で辛さに耐えている美紗しか見ていなかったから。

邪魔をしてはいけないと思った。

でも、やっぱり嫌なものは嫌で。 苛立ちは止められなくて、美紗に当たってしまった。

後悔しか残らず、こんなにも楽しくも何ともなく、ただただ嫌な思いしかしなかった旅行など初めてだ。

「・・・はぁ」

平日の中日に2日連続で有給を取った為、仕事が溜まってしまい、今日はいつもより1時間早く出勤。

溜息を吐きながらパソコンに向かっていると、まだ勤務時間には早いのに、事務所のドアが開いた。