八月のある日、山辺が微かに白み始めたばかりの早朝。辺りは依然として夜の闇に包まれており、草木は眠り、虫はじっと息を潜めている。

 ──ようやく、ようやくだ。永遠にも思われる一年が経ち、今年もまたこの村に戻ってくることができた。

 震えるような歓喜に自分を強くかき抱きながら、私は生き物が眠る夜を抜けて、山の麓に聳える鳥居をくぐった。そして石階段を上り始める。次第に心が急くまま足取りは速まり、私は息を切らしながらも何百段もの階段を一度も休むことなく駆け上がった。今ならば一切の苦しみも苦ではない。

 階段を上り終わると、息を整えるのも忘れたまま楼門をくぐった。いないとは全く思わなかった。来る日も来る日も求め続けた人は、やはり其処に立っていた。