月日の流れるのは早い。

春田さんのスマートフォンを拾い1週間が経ったと思っていたのに、もうその日から1ヶ月も経った。

制服も冬服のブレザータイプから、夏服のベストタイプに変わった。





「希和」

「あー心ありがとう!助かったよー!」

「わたしなんかで良いの?」

「心だから頼んだんだよ!」



何事もなく、ただいつも通り過ごした放課後。

わたしはバスケ部の部室に顔を見せた。

理由は放課後やることもなく暇だったし、希和に頼まれたから。



「じゃこれ拭いてくれる?」

「了解」



希和から受け取ったのはバスケ部に必要なバスケットボール。

タオルを受け取り、わたしはひとつひとつバスケットボールを拭き始めた。



本来バスケ部には希和を含めたふたりのマネージャーがいる。

いつもは希和と後輩マネージャーで、バスケ部が休みの日に拭くのだけど、今日彼女が風邪で欠席で。

希和ひとりで大量のボールを拭くのが大変だというので、わたしが助っ人に呼ばれたというわけだ。



「心がいてくれて助かったよー」

「わたしなんかで役に立つのなら、何だって言って」

「ありがと!」



他愛もない話をしながら、梅雨時でなんとなくジメッとした部室でボールを拭いていると、「そういえば」と希和が思い出したように聞いてきた。



「あのスマホどうなったの?」

「え?」

「前に心が持っていた黒いスマートフォン。
持ち主って見つかったの?」

「……あぁ、あれね」



わたしの手元にあるよ、とは言い辛かった。

言えば理由を聞かれるとわかったから。

3年後の人が持っているスマートフォンだから警察に渡せないの、なんて言えない。

言っても良いけど信じてもらえず、頭の変な人だと思われてしまう。

春田さんのことは黙っておこう…。



「まだ見つかっていないみたいで、わたしの手元にあるの」

「そうなの?でもそういうのって警察で持っていてくれないの?」

「そうなのかな。でも持っているよう言われたから…」



話をでっちあげてしまったことに罪悪感を覚えるけど、これで通すことにした。

わたしは鞄の中に仕舞ってある春田さんのスマートフォンを取り出した。




「ほら」

「画面真っ暗だね。つかないの?」

「電源が切れているんだよ。充電していないし」

「ふーん。そうだ、写メらせてよ」

「どうして」

「お父さんに見せてみる。何の機種か気になるじゃない!」

「だ、駄目だよ!」



思わず声を出してしまう。

希和が言っていたので春田さんに聞いてみた所、このスマートフォンは3年後に新発売されたらしい。

つまり、3年前の今この現代にはないということだ。



「え?どうして?」

「それは……」



春田さんのことは内緒にしておく、というのをさっき決めたばかり。

わたしは希和の質問に、しどろもどろになっていた。