夏休みに入って数週間。

わたしはどこにも行かず、ただ部屋の中でゴロゴロしていた。

わたしは休みだけど両親は変わらず仕事で、家にいない。

静かな家の中、外にいる蝉だけが騒がしかった。




『3年後、君は僕の世界にいない』

思い出すのは、水樹くんのその言葉だけ。



どういうことなんだろう。

聞きたくても、怖くて聞けない。

水樹くんの言葉が本当なら、わたしは3年の間に死んでいることになっている。

死んでいるなんて、そんなの「はいそうですか」と信じられる方が可笑しい。

わたしは健康で、病気は持っていなくて、当たり前のように明日を待っている。

明日が来るのが当たり前じゃなくなる日なんて、信じたくない。

わたしは今日も明日も3年後も10年後も、変わらず生きている。

そう無条件に信じてきたのに。



水樹くんからはあれから何度も電話が来ているけど、無視している。

遂には10分おきごとに電話が鳴るようになって来たので、鞄の中に仕舞ったままだ。

水樹くんが嘘をついているなんて思いたくないけど、やっぱり聞けない。



『ブー、ブー、ブー』



あの軽快な音楽じゃない、マナーモードが蝉の合唱に交じって聞こえる。

起き上がって机の上にひとつだけ置かれている、わたしの白いスマートフォン。

電話で、相手は奥村だった。



夏休みに入って、すぐだった。

わたしが奥村に、「友達から始めても良い?」と返事をしたのは。

それからすぐにアドレス・電話番号・ラインを交換した。

何度も遊びに誘われているけど、その度にわたしは断ってきた。

心の中に、奥村ではないあの人の存在があるから。