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理想の恋は、誰に微笑む

理想の恋は、誰に微笑む



「口に合わなかったかな?」


楽しみにしていた、久堀さんとのディナー。

いつも連れていってくれるお店も、十分に素敵なのに、今日は誕生日だからと、いつもとはまた違ったお店へと選んでくれていた。

どの料理も、切り崩してしまうのが勿体ないほど綺麗で繊細で、優雅な音楽の流れる店内は、背筋が伸びるような洗練された空気を纏い、正装のウエイターが些細な機微にもすぐさま気づいてくれた。


「いえ! そんなことは! すごく美味しかったですし、本当に素敵でした……!」


だからこんなこと、感じる方がおかしい。

これがあたしが理想としていた世界そのもの。

華やかで優雅で、おしゃれで、格式高い。

結婚相手には、こういうところに連れてこられるだけの甲斐性を求めているし、今だってそう思っている。

だけど……。


「だけど……?」


まるで、あたしの気持ちを映すように、久堀さんが続けた。


「え……?」


思わず泣き顔、困り顔に転じる。

ドキッとした胸の内を悟られただろうか。


「……ごめん、何でもないよ。楽しんでくれていたらいいんだけど」


久堀さんの、儚げな笑顔に、胸がチクっとした。

何も気にすることなどないはずだ。

これが理想で、これが夢。

何度となく願った未来が今、目の前に広がっている。

なのに、今、その理想とは裏腹に、雲をつかむような心もとない気持ちに囚われている。

嬉しいはずなのに、アイツのせいで散々だ。

アイツのあの言葉が、胸の奥底にあるドアを叩き続けている。


「なにかあったの?」


お店を出ると、外はすっかり寒さを帯び、道行く人たちの距離をグッと近づけていた。

久堀さんの問いかけに、視線が上がる。


「そういう顔、してるよ」


驚いたあたしに、久堀さんがいつもの笑顔を向けて、自分の頬をとんとんと指差した。



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