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「わっちは、二度会えないのではないかと諦めていたのでありんすが…」



昼の吉原。

美しき遊女碧夢(あゆめ)は、目の前で絵筆を動かしている男に、嫌味っぽく言った。



「僕も本当は、もうここに来ることはないだろうと思ってたんですけどね」


「…客として来て欲しかったというわっちの願いを叶える気はなかった、と」


「一介の絵師が、貴女のような高級遊女を買うことができると本気で思います?」


「その気がないなら、今までも今日のように昼間に来たらよかったのではありんせんか?」



壱祐は、碧夢のもっともな言葉に苦笑する。


普通、遊女の絵を描くのに、わざわざ夜は選ばない。

だが遊女の美しさは夜にこそ発揮される、と美しさにこだわる壱祐は、彼女に仕事のない夜を選び、暗闇の中で描いていた。



「まあ、今日は花魁である貴女を見ることのできる最後の機会ですからね。明るい中で、しっかりこの目に焼き付けておこうと」


「…また上手いこと」