ケータイ小説 野いちご

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あの日、キミがいてくれたから。

第1章
3節 キミも私も知っていた


放課後の生徒玄関。

人はもういなくて、吹奏楽部だと思う、楽器の音が聞こえる。

外は土砂降りで、さすがにこの中を走って駅まで行くのは無謀だとわかっている。

せっかくの新しい制服を、ビショビショにはしたくない。

だから、私はこの雨が止むまで1人、この誰もいない生徒玄関で待っている。

でも、全然苦じゃない。

だって今日は、凄く楽しかったから。

楽しいことが、まだ心の中でホカホカと感覚を持っていて、すぐに鮮明に思い出される。

気になっていた豊浦さんや比嘉さんとも話すことができた。

お昼ご飯も一緒に食べることができた。

こんなに楽しい1日を過ごせたのは、人生で初めてかもしれない。

「あれ、川崎さん?」

――っ!?

もう、人の気配はなくなって、誰も来ないと思っていたのに、私に声をかける人がいた。

瀬尾君だ。

「もしかして、傘ない?」

続いてそう聞いてきたのは、神崎さん。

その言葉に、私は苦笑い。

「じゃあ、瀬尾の傘に入って行けば?」

「お、俺!?」

神崎さんの言葉に、瀬尾君が声をあげる。

「何? 嫌なの?」

「とんでもない!!」

「ってことで、入れてもらいな。本当は私が入れてあげたいけど、駅でしょ? 私方向違うから」

何で、知ってるんだろう…。

そんなことを考えている間に、瀬尾君も神崎さんも靴を履き替えた。

「じゃ、行こう」

瀬尾君は言ってくれるけど。

私なんかが、傘に入れてもらうなんて悪い気がして…。

「遠慮しない。ほら」

とんっ、と肩を押されて身体が前に倒れそうになる。

「おい、神崎!」

瀬尾君が支えてくれて。

「あ、ごめん」

神崎さんに言われて、「大丈夫」と言いたいけど、言えない。

とっさに声が出ない。

「川崎さんが嫌じゃなかったら、俺と一緒に帰ってくれない?」

そんなふうに言われたら、断る方法なんて私は知らなくて。

頷いた。

「じゃあね。また明日」

そう言って、生徒玄関を出て行く神崎さんはすごく格好良くて絵になっていて、やっぱりモデルさんみたい…。

「俺達も行こうか」

歩き出した瀬尾君に、私も着いて歩く。

「大丈夫? ちゃんと入ってる? 濡れてない?」

帰り道、瀬尾君は私が濡れていないか気にしてくれて。

「大丈夫」「ありがとう」と、言いたいのに、言えない。

「…あのさ」

途中、瀬尾君が言った。

「もし、良かったら、なんだけど…。明日から、川崎さんが良ければ、一緒に登校しない?」

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