ケータイ小説 野いちご

この作品のキーワード

あの日、キミがいてくれたから。

第1章
2節 友達って、思ってもいいですか?


78年4月12日水曜日。

今日も、空はどんよりと重く雨も降りそうな雰囲気だ。

――傘、家に置いて来ちゃったけど大丈夫かな…。

桜月学園高等部の校舎前で空を見上げる。

今更、だけど…。

時間は7時30分。

昨日もらったプリントの中に、「8時30分までに登校」と書いてあった。

当たり前だけど、辺りは静かで誰もいない。

扉に手をかける。

力を込めてゆっくりと引くと、音も無く扉は引っぱられた。

――よかった。

開いていた。

早すぎて、中に入れないかもしれないと思っていたから安心した。

まだ、誰もいない生徒玄関に足を踏み入れる。

ゆっくりと閉まる扉。

扉が閉じきると、外の世界と隔絶されたような感覚になる。

さっきまでしていた風の音も、湿っぽい空気も、雨の匂いも、全てがガラスの向こう側にいってしまったから。

ただ、静かな空気だけが広がる。

ふと、天井を見上げて、扉に向けられたカメラが目に入った。

――防犯カメラ…?

公立の中学校の生徒玄関を思い出して、私立の学校は違うな、なんて思ってしまう。

視線を前に向けて、自分の靴箱へ向かう。

入口から1番手前の靴箱の裏側。

56番と書かれたところが私の場所。

向かって1番右端から2列目の1番上。

靴箱は卒業するまで3年間同じところを使って、卒業したら次の新入生に明け渡されるらしい。

これから3年間、使いやすそうなこの場所を使えるのはラッキー。

靴を履き替えて、教室に向かう。

しんと静まっている廊下。

7時30分じゃ、さすがに誰もいない。

教室に着くまで、誰にも会わずに廊下を歩いた。

1年C組。

どこの教室もそうだったけど、扉が開いていて、でも電気はついていない。

パチン、と扉横のスイッチを押すと、一気に教室が明るくなった。

窓に映る、教室と私の姿。

雨が本格的に降るかもしれない、そんなことを思う。

――帰るまでに止めばいいな。

そんなことを思って、でもそういう日は大抵止むことはなく、ずぶ濡れで帰ることになるんだけど…。

1人きりの教室で、私は自分の席に座る。

窓側から2番目の、1番前の席。

教室の様子を見るのは、1番後ろの方が見やすいから、そこは少し残念。

鞄から本を出して、開く。

『陛下に愛を誓うまで』と、表紙に書かれたタイトルを見せるのは少し恥ずかしいけど、どんなタイトルの本を読んでいるかは、カバーをしているからたぶん人にはバレない。

前回読んだところは、確か、主人公の女の子がお城に連れ戻されたところだ。

続きから、私は文字を追い始める。

でも、頭によぎる、今朝のこと。

思い出すだけで、泣けそうだ。

< 13/ 27 >