ケータイ小説 野いちご

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あの日、キミがいてくれたから。

第1章
1節 入学式の日


78年4月11日火曜日。

天候は曇り。

入学式には、あまり向いているとは言えない天気。

でも、まわりの皆はどんよりとした空模様とは裏腹に、あちこちで賑やかに喋っている。

今日は、私立桜月学園高等部の入学式。

誰もが、初めて顔を合わせるはずのこの日のこの場所で、どうしてこうも楽しそうに
お喋りができるのか。

私には、できなない。

だから、私はあらかじめ机の上に置かれていたプリントたちを読む。

じっくり時間をかけて読めそうなのは『入学式の流れ』と『クラス名簿』の2枚しかないけど…。

「やった! やった! キセキ! キセキ!」

右側の少し離れたところから、そんな声が聞こえた。

可愛い声の元気な女の子だ。

気になるけど、声のする方は見ない。

見ちゃ、いけない…。

そんなふうに思う。

もし目が合って、話しかけられたら、どうすればいいかわからないから。

きっとうまくできなくて、あの子とは友達になれなくなる。

「わかったわかった。少しは落ち着こう。恥ずかしい」

今度は落ち着いた声が聞こえてきた。

綺麗な声の、この子も女の子。

――どうして、あんなに親しそうなんだろう…。

そんなことを思う。

皆、同じように真新しい制服を着て、初めてこのクラスの人たちと顔を合わせたはずなのに…。

会ってすぐ、そんなに仲良くなれるなんてすごい。

「だって凄いじゃん! 3人一緒に同じクラス! しかも席が前後で並ぶなんて! ね!」

「うん。凄いね」

可愛い声の女の子が言うと、今度は男の子が答えた。

「あんたは、ミユキにあまい」

綺麗な声の女の子がそう言った。

――ミユキちゃん…。あった…。

座席表にもなっている、このクラス名簿に「豊浦美雪」の名前があった。

他に、「ミユキ」と読めそうな名前はないからたぶんこの子だ。

私の、右隣2つ目の席。

――あれ…?

ふと、目に留まった名前があった。

「瀬尾徹」と書かれた、私と豊浦さんの間の席。

どこかで、聞いたことのあるような名前だ。

――せおとおる…。

ひらがなにしてみると、ますます、そんな気がしてくる。

でも、もしかしたら、「セオテツ」かもしれないし、同じ名前の人だって世界にはたくさんいるはず。

きっと、気のせい。

自分に言い聞かせる。

「カワサキトモミちゃん?」

――っ!?

名前を、呼ばれた。

隣の席の男の子、今まさに私がクラス名簿で見ていた名前の席に座っている子に。


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