ケータイ小説 野いちご

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スクエア・ラブ

1年 4月・5月・6月
3節 諦めない、強さ


78年4月12日水曜日。

どんよりと、雨も降りそうな天候。

けれど、私立桜月学園高等部1年C組からは明るい声が廊下まで漏れている。

「聡美ちゃん、このキーホルダー」

「え?」

1年C組内、窓側の一番後ろの席で、1人座っていた少女――上田聡美は、突然かけられた声に驚く。

声の主は秋人。

秋人の周りには、男女ともに生徒が数人、興味深々という様子で立っている。

けれど、何に興味を示しているのか、聡美にはわからない。

「このアニメ好きなの?」

秋人は再び聡美に聞く。

秋人が示しているのは、聡美の鞄につけられたアニメキャラのキーホルダー。

「えっと…、う、うん」

戸惑いながらも、聡美は答える。

一見、ただの猫に見えるキーホルダー。

しかし、それを一目でアニメキャラだと見破ったこの人は、もしかしたら、と聡美の中に期待が生まれる。

「おっはよー」

このタイミングで、教室に入って来た少女――神崎梨花。

秋人はすぐさま、梨花へと声をかける。

「梨花ちゃんおはよー! 朗報朗報!」

「えー? 何々?」

梨花は自分の席へ向かうよりも先に、秋人のいる人だかりへと向かう。

「じゃーん! 見て見て! ネコ兄さんのキーホルダー!」

秋人が指差すのは、聡美の鞄についているキーホルダー。

「ネコ兄さんっ!!」

梨花は、それを見るなり目を輝かせ、そのキャラクター名を口にする。

「好きなの? 好きなの? 好きだよね? だってこれイベントじゃないと手に入らないし! 好き以外の何者でもないよね! ね! ね!」

「は、はい…」

梨花の勢いに流されるまま、聡美は頷く。

「ひゃー嬉しー!! 私もネコ兄さん推しなの!! 仲間増えて嬉しー!」

「わかるんですか!?」

「わかるわかる!!」

すっかりと、意気投合した2人の周りではクラスメイトたちが歓声をあげる。

「…何事?」

教室に入って来たばかりの礼子は、盛り上がるクラスメイトたちを見て疑問の声をあげる。

冬行、美雪も礼子に続いて教室内を見るも、なぜこうも盛り上がっているのかわからない。

「今年もやってるねぇ」

少し遅れてやって来た隆は、慣れたものだと言わんばかりに、盛り上がる集団を一瞥して自分の席へと座る。

「今年も?」

聞いたのは、美雪。

「ああ、アキの友達マッチングサービス。うまいんだよね、同じ趣味の人同士を引き合わせるのとか。ほら」

隆の視線を辿り、人だかりの中心を見ると、つい先ほどまで名前も知らなかった者同士の聡美と梨花が、手に手を取り合って昼食を共にする約束を交わしていた。

人だかりからは拍手が沸き起こる。

「アキ、俺にも紹介してくれよ」

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