清は気分が良かった。
僅かな時間だったが、久々の快眠は、心身を十分癒してくれた。

それ故、あれだけ屋敷内に入ることを躊躇っていたにもかかわらず、重厚なドアを惑うことなく開け、颯爽とした足取りで中に入る。

屋敷内は外より幾分ヒンヤリとしていた。
窓が開け放たれているからだろう。

「ここも昔のままだな……」

広々とした吹き抜けの玄関ホールも、アールを描く豪華なサーキュラー階段も、記憶のままの姿で清を出迎えた。だからだろうか、清の胸に熱いものが込み上げ、一瞬、また迷いが生じる。

「まったく……」と清が舌打ちしたその時だ、一陣の風が吹く。
玄関脇のユッカの葉がサワッと音を立てる。まるで『進みなさい』と言っているように……。

清は、とつおいつしながらも、誘がれるまま歩み出す。
則武と裕樹?
目線の先、エントランスホールのソファに四人の姿があった。

そのまま歩みを進め確信する。清の方に顔を向けているのは、思った通りの二人だった。そして、ローテーブルを挟み、彼等に対面して座る後姿が二つ。

「あっ、清!」

則武と裕樹は彼の姿を見るなり、顔を歪める。
金成との交渉がうまくいかなかったことは、その表情が物語っていた。

清が更に歩みを進めると、案の定、則武は「撃沈」と項垂れる。
裕樹も「琶子に会えなかった」と本を抱き締め肩を落とす。

クスクスと笑い声がし、背を向け座っていた一人がソファから立ち上がる。そして、清と対面する。その顔は二人に反し満面の笑みだった。