月城 しずく。


物静かな俺とは違って、明るくて元気な俺の幼なじみ。


背は高くもなく低くもなく標準で、綺麗というよりは童顔で幼さの残る顔をしている。


クリクリした目がリスみたいでひ弱に見えがちだけど、実はかなり負けん気が強くて人一倍の頑張り屋。


寂しがり屋で泣き虫だけど、それを隠そうとしてムリをしていることもある。


肩甲骨付近まで伸びた黒髪を、サイドでポニーテールにしてシュシュで結んでいるのが定番だ。



「わ、この2人結婚するんだね。女優さんの方は、前にイケメンアイドルとウワサになってたのにー!」



かろうじて外の世界と繋がっている右耳から、楽しげな声が聞こえた。


声のした方を振り返ると、しずが目を輝かせながらテレビのニュースを観ていた。


静かな場所で話しているとほとんどの音や声は補聴器で聞き取れるけど、教室や騒がしい場所では騒音の方がうるさくて会話が聞き取りにくい。


小4の夏、交通事故に遭って命が助かった代償に、すべての音が俺の中から消えた。


補聴器なしでは騒音はもちろん、相手がなにを言っているか聞き取れず、まともに会話をすることが出来ない。


耳元でかなりの大声で話してもらって、やっと聞こえるレベル。


俺のように途中から聴力を失った人のことを、『中途失聴者』と呼ぶらしい。


俺は比較的言語機能が確立されてから聴力を失ったから、話し言葉や発音に影響はない。


音のない世界。


それは、俺にとって静か過ぎてなんの面白味もない世界だった。