「なぁ、佐伯。お前もしかして営業部の沖田さんと付き合ってんの?」


朝一番、会社の廊下で出くわした山口に「おはよう」の挨拶もなしにいきなり確認された。
彼は製造部なので、いつものごとく割烹着を着ている。


内容が内容なだけに、即座に否定した。


「付き合ってないよ!どうしてそうなるの」

「だって昨日、2人で定食屋から出てくるの見かけたんだもん」

「え……」


嘘でしょ。なんという場面を見られたのか。
定食屋から出てきたところなんて、私がグズグズ泣いてるから沖田さんが困り果てて、子供をなだめるように背中をさすってくれてたんじゃなかったかな。

それを見られたとしたら、かなり恥ずかしい。


「偶然、流れで行っただけ。付き合ってない」

「寄り添って歩いてたじゃん」


だから、それは泣いてる私をなだめようとしてくれてただけであって。
……ってそんなこと山口には言えない。


「そう見えただけじゃない?」

「じゃあ佐伯の片思い?あの人のどこがいいわけ?」


製造部の営業部の接点は、たぶん少ない。

製造部はあくまでも企画部から出された商品案を商品化するための部署なので、ごく稀に商品のクレームがあったり、使っている材料についての問い合わせなどで営業部と話す程度なんじゃないだろうか。


今の言い方から察するに、山口の中では沖田さんの評価は低いみたいだ。


「営業部にしては根暗っぽいし、人当たりは悪くないけど話が弾むわけでもないし。一言で言えば、地味じゃん。男から見ても大した魅力無いよ?」


もはやバカにしているとしか思えない発言の山口を、私は持てる力を尽くして睨みつけた。
一緒に働く同僚をそんな風に言う人は嫌だ。

正直、幻滅した。