沖田さんと連絡先を交換してから、数日が経った。


会社ではクリスマスに向けたお菓子の開発に熱が入り、いくつか最終候補まで残った試作品を社員たちが食べて評価していくという段階に入りつつあった。


中身が決まっても、今度はそのお菓子をどんなパッケージにするのか、細かいデザインや写真はどうするのか、そこも話し合わなければいけないので各部署が慌ただしい時期でもある。


事務はあまり踏み込んだところまで意見したりは出来ないので、状況を見守るくらいしかすることは無いのだけれど。


企画部が構想したものを製造部で作り、3つほど試作品が私のデスクに並んでいた。
もちろん、他の事務員のデスクにも同じように並んでいる。
食べ比べってやつだ。


「見た目はこのピンクのやつが1番可愛いよね」


茅子さんがラズベリーチョコでコーティングされた三角形のお菓子を指でつまんで、ペロリと唇を舐めた。
ミニケーキみたいな見た目で、中はパイ生地とチョコレートのガナッシュが層になっていて、食感もなかなかいい。ちょっと酸味が強め。


「私はこっちの甘いのがいいなぁ」

「あ、私も私も!」


隣のデスクの後輩や、他の事務員にも人気だったのは円柱のこれまたミニケーキ風の栗を使ったお菓子。

しっとりめのクッキー生地でゴロゴロした栗と甘いカスタードを挟み、裏ごしした栗のペーストで綺麗な円柱型に固めているもの。
なんというか、和製栗きんとんみたいな?

かなり甘めで私は苦手かも。


試食しながら盛り上がるみんなを尻目に、私は誰からも支持されることのなかった最後のひとつが1番美味しいと思った。


香ばしいキャラメルナッツをビターチョコと混ぜて、正方形に固めたもの。
食べると中からほんのり柑橘の香りがするピューレみたいなものがとろりと溶け出てきて、食べていて面白かった。
甘いよりも苦めで、大人向けという感じ。


クリスマス向けなのだから、やっぱりミニケーキみたいな方が売れるのかな。


どこも似たような商品を出すのは目に見えているのだから、甘さ控えめのお菓子がひとつくらいあったっていいんじゃないかと思ったりして。