「帰ったか」

 今日は親父がいる日だった。似合わないエプロンを着て何かを作っている。いい匂いはするけれど、それだけで料理名までは特定できない。親父の十八番のビーフカレーでないことは確かだ。

 「ただいま」

 「晩飯もう少しでできるから、本読むなよ」

 「分かってるよ」

 僕は一度読書のスイッチが入ってしまうとなかなか抜け出せない。その本を読み終わるか、宿題のような優先事項ができないと読書を中断できなくなってしまう。それを親父もよく知っていて、だから僕に夕飯が近いときは本を読まないようにいつも口を酸っぱくして言うのだ。こっちは耳にタコでもできそうだ。

 「今日は何作ってるの?」

 「ガパオライスだ」

 ガパオライス。親父の言ったことを反復する。聞いたことはあったけれど、どんな料理かは分からない。チャーハンみたいなものだろうか。

 「タイ料理でな、肉とか魚介類の炒め物と目玉焼きをご飯に盛りつけて、それを混ぜながら食べるんだ。まあ、アジア風のチャーハンみてえなもんだよ」

 チャーハンはアジア料理だろ。