「いってきます」
 
返事がするはずもない家に向かってそう言うと、文庫本を片手に家を出た。しおりがもう半分を過ぎて、物語もいよいよ佳境へ差しかかっている。

早く読んでしまわないと新しい本が買えないものだから、なんとか今日中に読み終わりたいものだ。親父との決まりで、買った本は読み終わるまで次は買ってはいけないことになっている。

そうでもしておかなければ、湯水のように小遣いが流れていってしまうから、僕自身も困ってしまうのだ。

 なんとか自制心を働かせつつも、つい昨日発売された葛城奏の最新刊だけは、どうしてもいち早く手に入れたいので今読んでいる本は早く消化してしまいたかった。