実を言うと、葛城奏の作品に描かれる主人公はあまり好きではない。昼休みに柚木に言っていたことと矛盾しているように聞こえるかもしれないけれど、はっきりした理由はある。

 例えばデビュー作、『空君』の主人公なんかを取り上げてもいい。性格は内向的で人間不信。中学時代、もっとも親しかった友達からいじめを受け、それ以来人付き合いにトラウマを抱える。基本的に独りでいる時間を好むしかなくなってしまった。

 けれど高校に入ってから生活は一変する。物語上のいわゆるヒロインの存在が彼を徐々に変えていく。無理矢理話しかけてくる彼女と親しくなっていくにつれていつしか恋心が芽生えていくというような、いかにもなサクセスストーリーだ。

 今までのどの作品においても、僕はどうしても自分と主人公を重ねてしまうのだ。

 笑えないくらいに似ていると思ってしまう。人間関係に諦めをつけている主人公も、生きる目的なしに彷徨している主人公も、みんな僕なんだ。

 どうしても自分を見ている気がして、だから好きじゃない。