『僕、大きくなったら茅野ちゃんと結婚するー』
と幼稚園で隣の席の子に言われて以来、特に浮いた噂もなかった。

 いや、そもそも、あれも浮いた噂などと言えるものでもなかったが。

『茅野は誰が好きなの?』
と小学校の高学年くらいから、お友だちに訊かれるようになったが、誰も思い浮かばなかった。

 特に好きな人も居なかったから、秀行の条件を飲めたのだとは思う。

『結婚なんて、そんなものよ』
とお母さまは言っていた。

『夫婦として、添っているうちに、愛情も湧いてくるものですからね』

 そうなのだろうか。

 秀行さんにキスされるたびに感じる違和感もいつか消えていくのだろうか?

 そう思って、生きてきた。