八月七日。夏祭りの後に初めて会う。
約束の九時より八分早く着いた。ベンチに座り、腕時計をチラチラ見ながら待っていた。


「早霜さん、おはよう」


上から苦手な人の声がした。


「三重さん……」


「何でここにいるの?」


「待ち合わせ。そっちこそ、何でここに来たの?」


威圧的な三重さんに怯まず、質問を返す。
無意識にここは安全だと思っていたからガッカリした。


「ふぅん……私は階段を上るところが見えたから来ただけ。待ち合わせって、もしかして貴島君?ねぇ、夏祭りに二人で行ったでしょ。見たよ?」


いつの間に!?
驚きが表情に出てしまった。図星の私を見て恐ろしい笑みを浮かべている。


「お祭り程度で楽しそうにして、子供みたいだね。欲しがってたネックレスも安っぽい、子供しかつけないような物だったし。服も地味だし、センスないね」


三重さんは、私の胸元で輝くネックレスを指差した。
私はネックレスを握り締め、歯を食い縛る。


「あの時つけてたネックレス、何年前の?余計にダサく見えるからもう何もつけない方がいいんじゃない?」


「馬鹿にしないで!あの時つけていたネックレスも、貴島が取ってくれたネックレスも……!服だって派手なら良いってもんじゃないでしょ!」


木に止まっていた鳥が、鳴いて飛び去った。
これでは駄目だ。冷静に……。顔を上げて、しっかりと三重さんの方を見る。


「数年経っても、力は健在だから」


「はあ?何言ってんの?こんな頭のおかしい子に好かれるなんて……貴島君は可哀想」


可哀想?好きな人にそう言えるあなたは、きっと力を借りることが出来ない。
あのネックレスの魅力は、大切にする人だけが知っている。
見えなくても、科学的に証明できなくても、確かに私に力を与えてくれる。


他の人は魅力を感じないデザインでも、あの時の思い出を連れてきてくれるから大切にしたくなる。


それを主張するように、真夏の日光に当たって、本物の宝石にも負けないくらい輝いていた。