翌日、ちゃんと中村さんにマニキュアを返せたときは心底ホッとした。

 あー良かった、高田さんから返すことにならなくて。

「助かりました、ありがとう」

 第1営業部での朝礼が終わったあと、中村さんの机まで行きそう言うと、彼女はにっこりと笑ってくれる。

「良かったですー。ちょっと固まってたかもって後で焦りました。大丈夫でしたか?」

「はい、大丈夫よ」

 ・・・だったと、思うよ。心の中で付け足す。

 だって塗り始めてすぐにヤツが邪魔したから、実際のところほとんど使ってないのだ。

「机にも一個入れてるので、また伝線したら言って下さいね~」

 ニコニコと中村さんが言うのをぼーっと見詰めてしまった。

 かーわいーい。うーん、キラキラだわ、本当。

 もう一度お礼を言うと、自席に戻って今朝の営業準備をする。

 職域のチラシ・・・あ、今日こそはあの人からアンケート貰いたい。それに、あそこの会社、どうかな。でも飛び込むのにはちょっと大きくてビビる・・・副支部長一緒に行ってくれないかな。

 ご飯を食べるようになったことで、体力もつき、営業活動にも意欲が出てきていた。

 去年は辛かった真冬の営業活動も、今年はそんなに嫌じゃあない。まあそれは11月戦での上司の締め上げが恐ろしかったというのもあるんだけど。あれはもう経験したくないな。

 完全に停滞していた私の毎日は、なんとなくだけど確実に動き始めていたのだ。あの二人の男によって。