「航、飲みに行こう」




倫さんがそう言って連れ出してくれた夜、何軒目かで訪れたのは、“芸能人”になりたての俺でも空気で分かる、超高級店のクラブだった。




planetのボーカルオーディションに受かり、ラッキーボーイと騒がれていた頃。
目まぐるしいスピードで変わり続ける環境の中、俺は正直立っているのがやっとだった。

疲れていたと思う。
自信もなくなっていたし、じゃあ俺はそもそも自信があったのかと自分が嫌になった。






明らかに今まで遊んだことのある夜の店と違う空気感に、改めて芸能界への場違い感を感じた。
既にまぁまぁ飲んでいたこともあって、倫さんと役員が座った席と少し離れてソファーに腰を下ろした。


すぐに、ママと思われるまさに絶世の美女と数人のお姉さんたちが俺たちをサンドして腰を下ろしていく。




ちょうどよく、端の席をキープできた俺。

話込んでいる倫さんと役員に、やんわりホステスたちが相槌を打っているなか、欠伸を噛み殺した。



やべぇ、眠たくなってきた…
寝れる時間もずいぶん減ったな、ボイストレーニングが中心の毎日。

けっこう体力も使うし、明日早朝からのスケジュールを思うと、いろんな意味で気が遠くなった。









そんなとき、君が現れた。