蝉の鳴き声が。
子供の騒ぐ声が。
車の走る音が。

色んな音が耳へと入ってくる。

別に耳障りだとは思わないし、嫌だとは思わない。

だけど。

偶々通りすがった全然知らない人たちと目が合う。
それだけで、私の気持ちは、心は、黒く染まっていく。


「どこ行こうか?(熱いなー……つーか、こんな日にデートとかやってられねぇ)」

「うーん公園とか?(目的地くらいお前が決めろって)」


ニコニコと笑う楽しげなカップルも。
心の中は氷のように冷たくて。


「今日は何して遊ぶ!?(あー涼しい所でテレビ観たい)」

「そーだねーとりあえず歩こうか!(お前なんかと遊びたくないし)」


仲が良さげな友達同士も。
心の中は醜く歪んでいる。

何処を見ても。
誰を見ても。

私の中に入ってくる声はいつだって汚くて。

それから逃げる様に歩き続ける。

でも私は知っているから。
逃げ場がない事くらい。

それでも歩き続けるのは。
まだ私が正気だからだ。

醜い心に、汚い世界に。
押し潰されてしまえば、身動き1つ取れないから。

だから。
動けるうちに遠くに行きたい。

誰もいない、綺麗な世界に。

気が付けば早足である場所に向かっていた。

もっと早く。
あそこへ。