誰もいない教室は、いつもの騒がしい喧騒の世界とはうって変わって静寂の世界となっていた。
少し寂しいと思う人もいるかもしれないけれど。
私は断然こっちの方が好きだ。
だって、何も聞かなくて済むから。

醜い心の声も、偽りの笑顔も。

ココには何1つ存在しない。


「和葉、始めるよ」


隣に顔を向ければ、正輝が私を見つめていた。


「うん」


小さく返事を返してシャーペンを握る。

隙間なくくっつけられた机。
いつもより近い距離。
感じてくる体温。

どれも緊張を促すモノばかりだけれど。
決して嫌だとは思わなかった。


約束通り正輝は私に勉強を教えてくれるらしい。
放課後にこうやって一緒にいるのも初めてで少し緊張するけれど。
集中をしないと。
その一心で、頷いた。


「まずは……前のテストの結果の紙持ってる?」

「テストの結果?あー確かファイルに……」


机の中からファイルを取り出し、ガサゴソと漁っていればお目当てのモノを発見した。
キミに渡せばそれを真剣な顔つきで見つめている。


「英語と科学が苦手みたいだね。
でも現代文と古典は物凄くイイじゃん。
……両方とも学年1位だし」
「あー……好きな教科は一応」


『あはは』と苦笑いをすればキミは呆れた様に笑った。
一瞬、私を見たけれどすぐに紙へと視線を戻す。


「じゃあ、まずは英語と科学からね」

「うん」


いきなり苦手な教科か。
大袈裟なほど肩を落とせばキミはクスリと笑って目を細めた。


「大丈夫、ちゃんと教えるから」

「……ありがとう」


その優しい笑顔だけで乗り越えられる気がする。
なんと単純なんだろう。
そう思いながらも頑張る事を胸に誓った。