結局部活やるんだ?

休み時間、あたしの席にくるなり
同じクラスの原田絵理は
あたしの頭をポンポンと叩く

やめろって!公式が抜ける
あたしはそう言って絵理の手を払う

大変だねーw
ケラケラ笑いながら絵理は
あたしの頭に消しゴムを乗せる

相変わらず余裕でムカつくわ

あたしは頭に置かれた消しゴムで
間違えた数式を消しながら
絵理を睨んだ

絵理の変顔に吹き出して
公式が一個抜けていく

中学から一緒の絵理はクラスの中でも
頭が良くて、あたしのタイプではないけど
可愛いらしい(クラスの男子談)
中学の時から付き合ってる彼氏アリ


人の好みはそれぞれだけど
あたしの可愛いは自分のタイプなんだよね

よーく教室を見渡せばそれなりに
可愛い子はちらほらといた訳で

しかし今はそんな事考えてる余裕はない

あたしは高校でも部活をやると決め
バスケ部に入部した

中学とは違いとにかく厳しい

先輩達の世話に応援、雑用、基礎練
1年なんて本当にその為にいるようなもの

それに加えて学校ではテストも始まる
赤点なんて取った日には部活動を
禁止される恐れあり

せっかくやると決めたのに
そんなとこで挫けてなんかいられない

あたしは好きな人と高校生活を
過ごす為に部活をしているのだ

頭が良くないあたしはこうやって
休み時間を削ってでも勉強しなきゃ
いい点なんて取れやしない

朝練に放課後練習、テスト前だというのに
土曜日も部活がある

義務教育を終えて部活をするという事は
そういう事なのだ
文武両道それが簡単に出来るなら
こんなに苦労はしない

授業を終えてあたしは体育館に入る
テスト前だから授業は午前中で終了

いつもより早く部活に行ける

この高校も3年生は夏休み前に
2年生に代を譲る
大学受験を控えている3年生は
部活は自主的になってくる
受験に関係のない3年生だけが
部活に顔を出すようになる


先輩達の練習を横目にあたし達1年は
ひたすら基礎練をする

シュートの練習、その場でドリブル

あたしを入れて1年は5人
みんな中学からバスケをやってきた子
ばかりで試合で何回も顔を合わせて
いる子達ばかりだった

中学の時伸ばしていた髪をばっさり切った
あたしに最初誰も気づいてくれなかったけど

3年生に交じって練習する茅野さんは
やはり目立つし綺麗
やっぱり高校でも次期部長は
決まっているそうで
中学の時より更に怖くなったと聞いた

ついたあだ名が鬼軍曹だそうです
これは白石さんから聞いたんだけどね

白石さんは相変わらず高校でも部長を
努めて、大学でもバスケをやるらしい
これは片瀬さんから聞いた話

まあ言うてもうちの高校は強い訳でもない
中学の時同様、勝ったり負けたり

でもやるんならやっぱり試合がしたい

入って間もないあたし達は
先輩らの立つコートには立てない
なので、先輩らが帰った後1年だけで
片付け名目でコートを使わせてもらう

でも今日は他の子達がテスト勉強の為
早く帰りたいと言ってきた

あたしはまだボールに触れて
いたかったから1人だけ残る事にする

小学校の時からずっとやってきた
シュート練習を始める

これだけはどんなに辛くても
やり続けてきた

中学から急激に背が伸びてしまった
あたしはフォームが崩れてしまう事もある
その度にこうして修正を繰り返す

最近やっとこの体育館のゴールに
慣れてきた所だった
300のシュート数を超える頃
体育館の時計は5時を指していた

あたしはボールを片付けて体育館を出る

鍵を閉めて振り向くと鬼軍曹が立っていた

うわ!!

いきなりいるもんだからビックリして
デカイ声が出る
そんなあたしの態度に茅野さんは笑う

だ、あの、忘れ物ですか

あたしは慌てて鍵を開けようとする

違うよ、涼を待ってたの!

へ?

門で待ってるから鍵返して来て!

あ、はい!

〈あたし、なんかやらかしたのか?

ダッシュで体育館の鍵を返し門へ向かう

門の前で待つ茅野さんはとても綺麗で
思わず顔が緩みそうになったが
速攻で顔を戻した

すみません、お待たせしました

うん、じゃあ帰ろっか!

そう言って茅野さんは歩き出す

あたしは何がどうなっているのか
わからず茅野さんに聞く

あ、あの‥

ん?
あたしの声に茅野さんは振り向く

〈ヤバい‥可愛い

あたし、何かしました?

何が?

いや、何でかなーと思って‥

一緒に帰るの嫌なの?

いや!そうじゃなくて!

こないだ家に来た時から喋って
なかったでしょ?

部活中の私語は1年には許されていない
学年が違う茅野さんとは同じ学校
同じ部活であって、挨拶はすれど
喋る事なんて滅多にない

あ、そうですね

涼が部活に入ってくれて本当に良かった

〈良かったも何もまだ基礎練のみ
なんだけどなー

前を歩いていた茅野さんはあたしと肩を
並べて歩きだす

〈心配してくれてるのかな?

考えさせてって言ってたのに
なんで急に入る気になったの??

あたしの顔を覗き込むように
茅野さんは聞いてきた

〈それは茅野さんが好きだからです!

なーんて言える訳もないヘタレなあたし

先輩が誘ってくださってるのに
やっぱり無視は出来ないです

そっか‥

何か言いたげな感じの言葉だった

しんどくないですか?
また部長になるんですよね?

まだ決まった訳じゃないよ

いや、他にいないじゃないですか?

いるよ!あたしなんて‥

茅野さんのその言葉に被せるように
あたしは食い気味で反論する

あたしは茅野さんじゃないと嫌です!

あたしの言葉に何も言わず茅野さんは
笑顔を見せる
また花が見えた、しかも増えてる

彼氏でも出来たのかって思った

へっ?

急に部活やらないって言い出すから
好きな人が出来たのかなーって?

いやいや、そんなのないですよ!
つか彼氏はいらないです!

彼氏は??

〈待って!そこに食いつかないで!

あ、ああ、彼氏なんかですね

涼、モテるのに?

はっ?モテないですけど??

中学の時何人も告られてたじゃん!

いやそれだったら茅野さんもでしょ?

あたしも彼氏はいらないもんw

言い間違っただけですから
じゃあいないんですか?彼氏?

茅野さんは答えなかった

笑顔であたしを見る

〈そうだ、なんで気づかなかったんだ
こんなに可愛いのにいない訳がないじゃん

てかまたあたしは失恋してるし
つかそもそも恋愛の対象にもならないくせに
何をそんなに舞い上がってたんだ?

あたしは本当に馬鹿なのか?

一緒にいたらもしかしてとか心のどっかで
期待してたのか?ある訳ないだろ?


いないけど

へ?
〈やば!!また思考がグチャるとこだった

彼氏いないよ

あ、ああ!そうなんですか?
じゃあ好きな人は?

涼はどうなの?

いや、いないですよ!

好きな人も?

〈いちいち可愛いんだよな!
つか別に茅野さんだって言う必要は
ないんだから隠す必要もないんじゃ‥

それは‥います

‥誰?

いや、言わないです

あたしの知ってる人?

〈知ってるも何も本人ですけどね!

さあ?言わないです

告んないの?

嫌われたくないんで!

〈要はこれが本音なんだよなー

わかんないじゃん、そんなの

〈それは相手が男だったらの話です

別に好きでいるだけで満足ですよ

あたしは少し不貞腐れたように言う


あたしは嫌だけど‥

茅野さんは立ち止まりあたしを見つめる

えっ?

あたしはその先に進みたいな‥

〈その先って‥いや、待て!勘違いするな!
これは茅野さんの好きな人の話だ


じゃあ告ればいいじゃないですか?
茅野さんならすぐOK貰えますよ!

〈こんなに綺麗なんだから


またあたしは好きな人の背中を押すんだ
これがあたしの現実だ


‥そうかな?

茅野さんはまた前を向き歩きだす


あたしは茅野さんの横に並び
言葉を続ける


そうですよ!もし茅野さんを断る奴が
いたら、あたしがぶっ飛ばします!


そんなの出来ないからw

少しはにかんだように茅野さんは笑う


大丈夫ですよ!茅野さんなら絶対
断れたりしませんって!
あたしが男だったら即OKすよ!w

〈あーなんでこんなに必死なんだろ?
自分の失恋を後押しするなんて
あたしって本当にドMなんだわ


男じゃなくていいんだけど‥

ん?
〈何が?

涼は男じゃなくていい‥

はい??

〈はい??あたし?

‥わかんない??

茅野さんはそう言いながらあたしの
懐に入ってくる

へっ?えっ?
〈いや、まさか‥

‥断らないんだよね?

〈嘘だろ?

はい‥断らないです

頭がボーっとしてくる


よかった!じゃあまた明日ね!

もう花どころか花畑が見えてくる

いつの間にか茅野さんのマンションの
前まで来ていた

茅野さんは振り向く事なくマンションに
入っていく


とてつもなく遠回りな告白を受けたのは
高校1年のテスト前だった