公園で作戦会議を終えて
あたしと太一は涼とLINEを交換する

あたし達の女子バスケ部はなぜか
後輩とは仲良くしないが鉄則だった
もちろん部活中の話だけど

なので、部活中に後輩達とにこやかに
お喋りするなんてあり得ない

太一の家が別方向のため、あたしは
やっと涼と2人になれた

この気持ちに気付いてなかった訳ではない

あたしの視線の先にはいつも
涼がいたからだ

あたしが涼の事を見ていたとしても
誰もそんな風には思わないだろう

それほど涼には実力があったし
見ているのはあたしだけではなかったから

女子部の事なんて全くもって興味のない
太一でさえ、涼に一目置いていたぐらい

公園から家までの帰り道

意外に家が近い事がわかる

あたしの家の延長線上に涼の家があるらしい

涼はさっきの事で緊張がほぐれたのか
ずっと笑顔のままだった

その時のあたしは別に涼と付き合いたいとか
そんな事を思っていた訳ではない

こんな風にこの子の笑顔を隣で
見ていたいと思っていただけだった

涼は早速次の日に任務を完了させ
太一のお姫様を部活見学に連れてきた


初めてみた片瀬さんは
the女の子と言う感じの子で
まあ、惚れるのもわかるかもと思った


太一はと言うと部活前に
わざわざあたしの教室に来てまで
どれだけテンションが上がってるかを
見せつけにきた
ただただ、キモかった

あと部活中はクソうるさかった

あたしと律は正式に部長と副部長に
なる事が決定していた

世代が変わるとなるとあたし達は
とにかく忙しくなる

もちろん学校の勉強だってあるし
他校との練習試合もある

3年はまだ部活にいるし、1年生も
見てあげなくてはならない

どうしても、同期にはキツくなってしまう

でもみんなわかってくれてると
あたしは勝手に思っていたんだ


夏休みに入ったら部活は更に忙しくなる
その前にはテストもあるので
あたしは律と相談して
1年生からも考えてみようと思った

自分が1年生の時にレギュラーになれたのは
そういう先輩がちゃんと見てくれてたから
そんな先輩達に見習い

まあ、今日は部活見学に来てくれた
子もいる事だし

あたしはみんなを集め
あたしと律を入れた2年と
涼とある程度、目星をつけてた1年生と
試合をする事を提案した

みるみる顔色が変わっていく1年生

やはり涼だけは違った

目をキラキラさせて
ゴールポストを見つめている

あたしは思わず
真山さんは犬みたいだねと
言ってしまう

近所の散歩に出かける時の犬の顔と
全くもって一緒だったから


チームプレイがまだ出来ない
1年にポジションを与えても
仕方ないのでとりあえず得点を
狙いにいけと伝えた

積極的にシュートを打ってくるのは
涼だと確信してたからだ
徹底的にマークにつこうと決めていた
涼のポジションがあたしと同じSFだからだ

しかし、涼がその日自分でゴールまで
ボールを運ぶ事はなかった

明らかにプレイスタイルが変わっていたのだ
どちらかと言えばPGに近かった
点を取りに行かないSFって感じだった
慣れない他の子らを使い
シュートへと繋げる

涼があの日先輩達に呼び出されたのは
このためだったとわかった

少し落胆したのを覚えている

でもそれも涼の成長した姿だと
思うようにした

副部長の律はPG
プレイ中にあたしのようにカッと
なる事なく、冷静沈着に周りを見てくれる


そんな律の後押しもあり
涼をレギュラー入りさせる事を決定した


PGはそのまま律
あたしもそのままSF
PFに2年Cも2年
涼は律の提案からSGとなった

もちろん涼がレギュラーになると言う事は
誰かが外されると言う事だ

わかってはいるけど
この瞬間があたしには1番辛い

でも試合に勝つためには仕方のない事だ

あたしが1年でレギュラー入りした時
外れた先輩はいつもあたしを応援してくれた

その先輩は3年になっても
コートに立つ事はなかった

唯一立てたのは引退試合の時だけ
あの日彼女がコートに入る瞬間を
あたしは一生忘れないだろう

けど、人が誰も彼女のようにはいかない
レギュラーを外された同期は部活を辞めた

更に追い討ちをかけるかのように
あんなにいた1年生は夏休みに入る頃
半分になっていた

その日から涼が部活で笑顔になる事は
一切なくなっていた

あたしは自分の下した決断の
罪悪感から涼へのLINEは欠かさなかった
涼はいつも大丈夫だと言っていた
ずっと後悔を抱えたまま
あたしは部活を引退した
それでもあたしは涼が好きなままだった