土曜日の午後、私は人の視線を集めながら谷口が指定した場所に立っていた。



(早く来て…)


チラチラと注がれる視線が痛い。
真綾から借りた服は、またしても派手で大人っぽい。

上がブラックでレースなのはまだ許せる。でも、このAラインのスカートがさ……。


「真っ赤なワンピ貸すわ」と笑った真綾の言葉を思い出した。
赤だけはやめてと言ったのに、このスカートの色はナシだ。


(そりゃ上等品だから色は抑えられててキレイよ。でもねぇ…)


アッサリな顔立ちの私が着るには不似合い過ぎるくらいの朱色。
おかげでまたしてもメイクが濃くなった。


(今日もリップが赤すぎるって言われるのかな)


唇の上を滑っていった谷口の指の感触が思い出された。
肉厚な指の腹は、少しだけ力を入れられてた。


ドキドキ…と小さな鼓動が聞こえる。

指だけじゃなく、あの人の唇も乗ったんだ。




(うわぁぁぁ…!)


思い出すな。
今日もキスを求められたらどうする。

相手はもしかしたら副社長かもしれないのに、断ることもできやしない。




(……副社長か)


真綾ならどんな風貌かも知ってる。
聞いてみようかとも思ったけど、やっぱり勇気がなくてダメだった。

谷口が副社長だとして、どうして苗字が違うんだろう。
真綾のご主人様は『轟』さん。『谷口』ではない。