鏡の前にいるのは魔法が解けたような顔をしてる自分。

艶やかな浴衣は、家に帰り着くなり早々に脱いだ。

汗をかいていたのが気持ち悪くて、そのままお風呂に直行した。

ワックスを付けてカールした髪を洗い流せば、いつもの通りのストレートヘアに変身。



「変身じゃないか。これが現実だ」


ははは…と虚しく笑った。
ツケマもグロスも落としてみれば、そこには庶民的な顔をした自分がいる。


「まるでシンデレラのようね」


派手なメイクも大柄な浴衣も似合わない私は、王子様に見初められたシンデレラよりも惨めだ。

王子様なんかじゃなく、ヤバい雰囲気を持つヤンキー男に捕まった。

しかもあろう事かファーストキスまで奪われて、彼女にまでされて。



「……あれって無効よね」


言い聞かすように呟く。

誰があのヤンキーと付き合う?
どう見てもヤバい感じの人にしか見えなかったのに。


「冗談も程々にしよ」


考えるのが嫌になった。
今夜は何も考えずに寝よう。


そう思ったのに世の中はうるさい。
マナーモードにしてるスマホには、友人二人からのコメントが流れてくる。



『どうだったデート?』
『今頃はホテルでイチャついてる?』


『家ナウ』


ガクッと肩を落とすクマのスタンプを押した。
程なくして戻ってくるコメントに答えるのすら億劫だ。



『何があったの!?』
『ケンカでもしたの!?』


『ダマされた』