(昔、昔、ウラシマは…って歌があったなぁ……)
目の前に並んだ料理を見ながらそんなことを考えた。
私の横に座ってるヤンキー男は、夜店の店主にまだ注文を続けている。
「あの……」
恐々と声をかける。
「あぁ!?」
面倒くさそうに見返された。
腕を引っ張って連れてこられたのはテントが張られたテーブル席だった。
ステージ上の催し物が見えるようになってる場所で、ヤンキー男は私に聞いた。
『嫌いな食べ物はあるか』
『あ……いえ、ありません!』
あっても『ある』とは言えない状況だった。
男はフン!と鼻息を荒くし、『待ってろ』と一言吐いて席を離れた。
(逃げるなら今だ!)
咄嗟にそう思ったけど、逃げだした後を思うと怖くて逃げだせない。
露天の並ぶ方へと行った男は、戻ってくるなり私の目の前に泡の立つビールが入った紙コップと焼き鳥を置いた。
『まぁ食べろ』
そう言いながら自分もビールを煽っている。
ぽかんとしながらその横顔を眺めていた。
男は私の視線に気づき、ジロリと睨みを利かせた。
『なんだよ』
『いえ、別に!』
怖さを紛らせるようにビールの入った紙コップを口にした。
コクコク…と飲みながら一体何しに来たんだろう…と思いだした。
『焼き鳥だけ先に食べとけ。じき別の物も来るから』