鏡の前に立つ艶やかな自分。

黒地に白と赤紫の牡丹柄が映える浴衣を着て、深いエンジ色の帯を締める。

帯留めにはシルバーの小花。柔らかくカールした髪はまとめて左肩のみに掛けてみた。

耳に垂らしたのはビーズで作ったイヤリング。

足と手に施したネイルは2時間もかけた力作だ。


ここまででトータル5時間以上かかってる。
後足りないものと言えば……


「ツケマにグロスか」


やっとメイクに入るのか…と思うと、少々ウンザリしてくる。


「なんの。これも彼のため!」


今日こそは違う自分を見せるんだ。
いい雰囲気になって、彼に求めてもらうために。


「ドキドキするぅ…」


下地クリームを塗りながら懸命に化けている私の名前は、乃坂 蛍(のさか けい)。
某玩具メーカーに勤務する26歳のOL。


今日は人生で初めてできた彼氏と3度目のデート。

夏祭りに行こうと自分から誘ってみた。



「ケイちゃんの浴衣姿楽しみにしてるよ」


彼氏の友近 郁也(ともちか ふみや)にそう言われ、必死で準備を始めた。




「浴衣でデート!?すっごいじゃん!」
「キレイに見せないとね」


「ご協力お願いします!」


オフィスの友人、真綾(まあや)と聖(ひじり)に頼んでアドバイスをしてもらった結果がこれ。


着飾った自分を何度見ても、まるっきりの別人に見える。




「詐欺だわ。これ」