……無音の夢だから、ふたりの言葉は通い合わない。

 昔から聞き慣れた声を紡いでいるはずの、目の前の親友の唇が動いも、叫んでも、その音はこの耳に届かない。

 ただ、見えるんだ。

 感じるんだ。

 握っていた手首を振り払われてしまった感触や、たった今まで笑ってくれていた目の前の表情が、あっという間に歪んでいく様が。

 そして、大切な親友の両目にみるみる浮かぶ涙と、それと一緒に溢れ出る苦悩が。

 こんなにはっきり見えるのに、こんなに強く感じるのに、音だけが聞こえない。

 だからどんなに耳を澄ませても、わからない。

 なぜそんなに泣いている?

 いつから、そうだった?

 なぜ? どうして今まで、言ってくれなかった?

 そしてどうして……自分は気づかなかった?

 まるで境界線が引かれているように、こちら側にはもう決して踏み込むまいと頑なに首を振っている彼の本当の気持ちを、どうして気づくことができなかった?

 顔をクシャクシャにして涙を零しながら訴えている親友の声が、なにひとつ聞こえないことが、とてつもなく悲しい。

 こんなにも必死になって伝えようとしてくれている親友の思いが、なにひとつ自分に届かないことが、なによりも苦しい。

 せめて、この胸のうちにある言葉だけでも、彼に伝えたいのに。

 伝えないままでは……彼をただ傷つけ、追いつめたままでは、自分はどこにも行けないから。

 どうか、誰か、神様、お願いだから、届けてほしい。

 胸の奥が灼けるほどに伝えたいと強く思う、この言葉を彼に……。

『……』