……人間の記憶も、感情も、思いも、長い長い時間が経てば、いつかは薄れて跡形もなく消え去ってしまうのかもしれない。

 あなたを見ていて、そう思う。

 真っ白な四方の壁と、天井近くのエアコンと、窓際の床に置かれた観葉植物の細い鉢。

 それ以外はとりたてて目につく物もない、シンと静まり返った部屋の中で、いつもあなたはベッドに横たわって穏やかに眠っている。

 いつの間に、こんなに皺深くなってしまったんだろう。

 額にも、目の周りにも、口の周りにも、樹木のような深い年輪が刻まれてしまった。

 幼い頃、いつも包み込んでくれたあなたの手も、まるで細い枯れ枝のようになってしまったね。

 それでも覚えているんだよ。あの温かさを。

 つらい時、いつも慰めてくれた優しい声を。

 嬉しいとき、一緒に喜んでくれた柔和な目を。

 あなたは、もうすべて忘れてしまったのかな?

 もう、伝えることはできないのかな?

 それでも、遠くなってしまったあなたの耳に、この言葉を囁きたいんだ。


『……』