「なッ…あなた、今、何を…」



殴り飛ばした?吹っ飛ばした?触れていないのに、あの人がどこにもいない。


消えてしまったのだ。ここから。完全に。


いったい、どうして…。



「もう一度訊こう…。貴女が、あの黒い炎を生み出したのか」



う、う、うわああああぁぁ…、かっこいいお顔が目の前に…。


って、私ってばどれだけ現金なやつなのだろう。


この人は放火魔なのに。



「そっ…そうですけど!多分!


あ、あ、あの…なら、あなたはさっきの赤い炎を森に放ったんですか!?


山火事にでもなったら、どうするんですか!?


裁判にかけられたら、少しの間の懲役じゃ済みませんよ!?」


「……やはり、あなたが十三代目ですか」



無視かい。



「な…なんですか、十三代目って…。私は一ノ瀬愛美、ただの日本の女子高生です、」



けれど、放火魔さんの纏う空気が変わったので、少し動揺する。


なんだろう、このいつくしむような視線。尊敬のこもった眼差しは。



そしてついに、彼は片膝をついて頭を垂れた。



「あなたを、お待ちしておりました。


…魔王陛下」