ケータイ小説 野いちご

甘美なキョウダイ

始まり
距離感






悠斗さんと美優さんと一緒に暮らし始めて数日後。私のすっとんきょんな声がリビングに響いていた。





「え、もう行っちゃったの?」




コーヒーの入ったカップを持ちながらソファーでニュースを見ているお父さんの隣に座る。




「うん、ちょっと遠いからね」



「いやそうじゃなくて…」




お父さんの見当違いな言葉に思わずガックリとした。



私が起きるより前に家を出ている二人と朝一緒に食事をしたことは一度もない。私が早起きが苦手でこれでも30分早く起きているのに間に合わない。





それ以上早く起きようとすると目覚ましの音を認識しない為これがギリギリのラインだ。




……一緒に朝ご飯食べたいのになぁ、と思うけれど仕方がないので文句は言ってられない。



ちなみに夕食も全然一緒に食べれていない。




お父さんも帰りは遅いため一緒にご飯を食べる機会は殆どなく、早くも私と優香さんの二人暮らしのような構図が出来上がってしまっていた。





……あまりよろしくない状況だとは分かってる。優香さんが悠斗さんに不満げに漏らしている言葉も聞いてしまった。




だからもう美形の前でご飯何て食べれない!と恥ずかしがる余裕はないのだ。




まだ様子見の時期なんだし美優さんは人見知りが激しいようだし、そりゃ円満の家族になるには時間も必要だと分かっているけど、お父さんと優香さんの仲はラブラブだけど……どこかこれは違うんじゃないかな、と思ってる。




まずは家族全員が揃う時間が必要だろうと早起きを決心した目先にこれだ。ダメだ私本当。




はぁ、とため息を吐いて落ち込んでいるとクスクスと隣から笑い声が聞こえた。



……何よ、とお父さんをぶっすりと睨む。




「志保は悠斗くんに会えなくて残念なようだ」



「……なッ!?」




予想もしていなかったお父さんの答えに思わず目を見開いた。




「あれ違ったかい?」



「ち、違うって!いや違わないけど悠斗さんだけじゃなくて美優さんも!お父さん適当なこと言わないでよ!」




思わず悠斗さんの麗しい顔を浮かべてしまい、カーッと顔が熱くなるのが分かった。そんな私を見てお父さんは笑みを深くするものだから更に火照る。




何でいきなりそんな話してくるの!最悪!とキーキー喚いていると、優香さんが話を聞きつけたのか笑いながらやって来た。




優香さんに見られたじゃないお父さんちょっと。しかも笑われてるじゃん!




恥ずかしい…と思わず小さくなっていると優香さんは手元のスマホを開いた。




「残念ながら悠斗と美優は両方売れちゃってるわね」




ふふふ、と零れた笑みと共に言われた言葉に首を傾げた。




「両方彼氏彼女がいるのよ。見てくれる?美優なんてデートの度に彼氏との写真を送って来るのよ。逆に悠斗は顔も見せてくれない。……志保ちゃんには二人の中間を期待しているわね」



え、両方カップル!?突然切り出された話題に私は目を白黒するしかない。



学校の友達の反応からもめちゃくちゃモテるだろうな、とは思ったけど既に相手がいるなんて意外だった。




私は二人が寄り添っている姿しか見てこなかったからか、二人が他の誰かに寄り添っているのは想像し難い。




……えぇそうなんだ。





あまりにもびっくりしてしまったので心臓がドぐドぐ鳴ってる。



ほらこれよ、と見せてもらった写真には私服の美優さんの隣に…黒髪の目がくっきりアーモンド型のイケメンが並んでいた。キリッとしているようにも見えるけれど、その大きな目と小顔で中性的なイケメンだなと思った。




……流石美優さん、彼氏もイケメン。




「イケメン捕まえてるでしょう?もう本当最近帰りが遅いのも彼氏と仲良くやっているからだろうし、悠斗があっちに泊まるのだって彼女と夕食でも行ってるからだわ。悠斗の彼女、美優のこととっても気に入っているみたいで三人の仲はいいらしいの」




どれどれ?と興味深そうに優香さんのスマホを受け取ったお父さんに、優香さんは口を尖らせて可愛らしく文句を言っている。




……悠斗さんの、彼女。




きっと凄い美人なんだろうなぁと思った。




「もう何も家族らしいことが出来なくてやになっちゃう」




……そう、それはそれは優香さんみたいに素敵な大人な女性なんだろう。





優香さんが私と同じことを思っていたと嬉しく思いながらも、悠斗さんの彼女の顔を見てみたいな…と私は少し上の空だった。








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