*********************

確かに、私は人としての何かが欠如していると思う。

何かと問われるとあまりに漠然としていて分からないけれど、そう自覚する瞬間がある。


「冷泉さん、聞いているの!?」


こうして身勝手な怒りをぶつけられている時とか。

目の前にいる女の子の名前はよく覚えていない。

というより名乗っていたかどうかも定かでない。


可愛らしい顔をしているのに、こう歪んだ表情をしていたらとても可愛いとは思えなくなってしまう。

もったいない。


「聞いているわ」


「嘘っ…さっきから上の空だったじゃない!」


比較的、丁寧な口調なのにこうもキンキン叫ばれると不快で堪らなくなる。

上の空ではなかったはずだ。

少なくとも、この子が言いたいことはわかっているつもりだから。


「つまり、こういうことでしょう。貴女は私の幼馴染みの円が好きで、親しい私の事が気に入らない。何か相違点は」

「なっ…私はそのような醜い理由で怒ったりなどしませんわ!」


「そう、違ったのね。では今一度考えることにします」


「ふざけないで!お家柄と円くんでいい気にならないで!」


バタバタと駆けていくその子の後ろ姿を見届けてから、深いため息をつく。

この学校にいる時点で家柄が良いことなんてお墨付きだというのに、尚も上を求めているのか。

帰る間際にどっと疲れてしまった。


また深いため息をついてから教室の一角を一瞥し、声を張り上げる。