「好き。」

そう伝えたら、彼は眼鏡の奥の瞳をまんまるにしてあたしを見つめてた。


だけど再度「好き」と言ったあたしに、今度は大きな溜め息を吐き出した。


三度口にした時には
さらさら呆れた様子でこう言われた。



「アホか。」

馬鹿のひとつ覚えじゃあるまいし。
なんて、鬼のような棘のあるお言葉。

だけど、諦めるのは性に合わない。



大体、「アホか。」って一言で済まされちゃーあたしだって引き下がれないってもんで。



こうなったら、とことんぶつかってくしかないでしょ!


って訳で、あたしは今日もこの場所へ足を向けた。



「またお前か。」

「またとは何よー。本当は嬉しいくせに。」

扉を開けたあたしに、粟生(あお)から投げられた第一声。


残り香に煙草の匂い。
まだ少し火の付いた吸い殻。

ねぇ、あたし知ってるんだよ。

あたしが来る時間をわかってて煙草を消してくれたって事。


…なんてね。
そんな事言ったらまた「アホか。」って言うに決まってる。