普段の生活からは想像もつかない、不可思議な出来事。

(…こんなことって、あるんだ…)

未だに、この現実が信じられない。


それに、こうしている間の自分自身の身体はどうなっているんだろう?とか。

どうやったら戻れるんだろうか?とか。

本当に解らないことばかりで。

今は、ただただ頭が憔悴しきっていて何も考えられなかった。


雨に濡れてすっかり冷えてしまった身体に、不覚にも朝霧の手のぬくもりが安心感をもたらしてくれて、何だか不思議な気分だったけれど。

その温かな手の中で揺られているうちに、思わず眠気が襲ってきて実琴はゆっくりと瞼を閉じた。




少しウトウトしただろうか。

ずっと絶えず聞こえていた傘を打つ雨音が不意に途切れたことで、実琴はふと目を開いた。

どうやら朝霧の家に着いたようだった。

朝霧は子猫の実琴を片手に乗せたまま器用に傘を閉じると、慣れた様子で制服のズボンのポケットから鍵を取り出した。

(朝霧って徒歩通学なんだ。知らなかった…)

ここへ着くまでに少しまどろんではいたが、特に乗り物などを利用することがなかったことだけは、ちゃんと分かっている。

(ここって、学校の近くだったりするのかな?)

朝霧が歩いていたのは知っているが、どの位の時間を掛けていたかまでは曖昧だった。 

何となく周囲の景色を見渡してみたところで、次の瞬間。実琴は固まっていた。