よく晴れた日曜の午後。


大きなガラス越しに陽の光が差し込む病院の受付ロビーは、休診日の為普段のように人が混み合うこともなく、広々とした開放感のある空間へと変化していた。

所々で入院患者と見舞い客であろうか、椅子に座ったりしながら談笑している姿がいくつか見られる。

そんな中、小さな紙袋を手にした朝霧はロビーを真っ直ぐに突っ切ると奥にある階段へと足を運んだ。


子猫の辻原と、この病院を訪れたのは昨夜のことだ。

あまりに日常から、かけ離れた出来事だったということもあり、まるで随分前のことのような気さえする…というのが本音だった。

薄暗い月明かりの下起きた出来事は、まるで全てが夢であったのではないかと疑う程に、現実として目の当たりにしたにも拘わらず、自分には些か信じ難いものであった。



辻原の身体に入っている子猫が暴れ出した時、小さな子猫姿の辻原は必死に子猫に何事かを呼び掛けていた。

恐怖に怯えるその肩にしがみ付き、振り落とされないようにしながらも、ひたすら念じるように訴え続けると、まるでその声が届いたかのように子猫は次第に抵抗を止めた。

父の身体に入っていた祖母も子猫が落ち着いたのを大丈夫だと判断すると、その身を開放してそっとその様子を横で見守っていた。

子猫は我に返ったように辻原を見ると、小さな辻原をその手に包み込み、自分の目線へと合わせるように目前に掲げた。