『煌暉くん、瞼にホクロがあるんですね?』

突然声が耳元で聞こえて、少し夢うつつに閉じていた目と顔を上げて横に振り向けば、いつの間にかそこに立っていた紫音が俺を覗きこんでいた。

紫音の住むマンションの周りを囲むように施されているイングリッシュガーデン。

その一角にあるガゼボが今日の待ち合わせ場所で、俺はそこに併設されているベンチへ座っていた。

どうやら紫音を待っているうちに、“うとうと”としたようで、ボャッとした頭で紫音を見つめていると、腰を屈めた紫音の髪が、サラッとその肩から流れ落ちた。

それと同時に花のような香りが俺の鼻をくすぐったことで、ハッキリと意識が覚醒する。


『あ……隠れちゃいました』

紫音が今指摘していたホクロ。
それは二重の線のすぐ下にあって、普通にしていればその瞼に隠れて見えない。見えるとすれば、今のように目を閉じているか、視線を真下に向けているかのどちらかで、それもかなり近づかないとわからないぐらいの大きさ。

そのいきなりの距離感に、


"近いって"


やっぱり思ったのはそんなこと。

だけど、そのまま俺の目が釘づけになったのは、甘い声を発した視線の先の口唇だった。

『お待たせしてしまって…ご挨拶があとになっちゃいました。
お疲れみたいですが、大丈夫ですか?』
「…………」
『煌暉くん?』

赤く色づいたそこが動いたことで、俺の喉が上下する。
それに慌てた俺は、そこから少し上にある紫音の目と合わせた。


"ヤバっ……飛びそうになった…"