「・・・まあ相澤君は若頭代理で、組のナンバースリーみたいなものだしね。どうしたって下の連中より狙われやすいし、引き離そうとするのも当然って言えば当然なんだけど」

 お土産にした生チョコプディングの二個目に手をつけながら、由里子さんは真面目に話をしてくれていた。

「でも結局、相澤君が折れたってことなら、それは自分で責任取れるって判断したからでしょ。織江ちゃんが心配する程じゃないんじゃない?」

 わたしを殺してと迫ったことまでは言えずに、かいつまんで話をしたものの。由里子さんの冷静な分析はとても心強くて、・・・とても安堵できた。

「織江ちゃん。相澤君には絶対内緒で、ひとつ教えてあげる」

「はい」

「“一ツ橋の虎徹(こてつ)”って呼ばれてるぐらいね、相澤君すっごく強いから。そう簡単にやられたりしないから大丈夫よきっと」

 虎徹・・・・・・。あの、今宵の虎徹は血に飢えている、って新撰組の近藤勇が言ったとか言わないとかの。
 思わず日本刀を振りかざす渉さんの姿を想像してしまって、・・・任侠映画とは訳が違うんだから、恰好良いとか不謹慎だわ、と慌てて自分を戒める。

 由里子さんは少しでも安心させようと。渉さんの身を案じてわたしが細ってしまわないかと。彼が堅く口止めしていただろう事まで、打ち明けてくれたのだ。

「・・・そうですね。渉さん、身体も鍛えてあって強そうですもんね」

 クスリと笑いを漏らすと、ホッとした表情で由里子さんも、でしょ?と笑顔をほころばせる。
 わたしが塞いでいたら、彼女は遠慮なく心配を渉さんに伝えてしまうだろう。もっと心を強く持って。由里子さんにも堂々と笑顔を向けられるぐらいに渉さんを信じなければ。

 この先に待ち受けるもの。それが何であっても。わたしは、逃げることは出来ないのだから。