白のアルファードで迎えに来たいつもの運転手さん、坂下さんと、助手席は藤君。一番後ろの後部シートの窓際がわたし、隣りに渉さん。
 よくよく考えると家族旅行・・・、社員旅行? 不思議な組み合わせ。内心でクスリと。

 こんな風に誰かと遠くまで出掛けるのは何年ぶりかしら。
 専門学校時代にクラスの数人と、ディズニーランドに行って以来なのを思い返す。あの時は卒業旅行も遠慮しちゃったし。
 
 平日だからか、高速道路を快調に飛ばしている様子だった。
 広大な水田地帯だったり山の峰だったり、流れていく景色を飽きもせずに眺めていると、不意に腕が伸びてきて肩を引き寄せられる。

「全くお前は。このまま俺を放っておく気か」

 頭上で呆れたような溜め息を吐かれ、顔を彼に向けるとそのまま唇が重なった。舌を優しくなぞって遊ぶみたいな柔らかなキス。しばらくされるがままになって。離れた唇は最後に額にも触れていった。
 渉さんの肩にもたれながら、小さく笑って謝る。

「ごめんなさい。山とか、久しぶりに見たからものすごく新鮮で」

「なら、次は海か。浜焼きも美味いぞ」

 海! 
 自分が犬だったら尻尾が振り切れてたに違いない。
 思わず顔を上げると、口の端を緩めた渉さんと目が合った。

「渉さんは旅行とか、よく行くんですか?」
 
「まあ・・・付き合いだ。年寄り相手で楽しめたもんじゃない」

 本当に詰まらなさそうに言われ、吹き出しかけた。

「織江が行きたい処があるなら、今のうちに云っておけよ?」

「そう・・・ですね。ずっと行ってみたかったのは、一番は屋久島です」

「ああ、世界遺産の屋久杉か」

「昔読んだ小説でファンタジーなんですけど、イメージが本当にピッタリでどうしても見てみたくて」

「・・・考えておこう」

「あとは知床半島とか。雄大な自然を見るのが好きなんです、多分」

「南と北と両極端だな、お前・・・」

 少し困ったように眉を寄せるから。
 真剣に悩んでくれそうなのが嬉しくて、つい笑みが零れてしまう。
 渉さんはわたしの頭を手でやんわりと自分に寄せた。大きな掌の暖かな温もりがじんわり伝わってくる。

「すぐには無理だが、ちゃんと俺が連れて行く。それまで待ってろ」

「はい・・・」



 はい。渉さん。何年でも何十年でも。
 貴方は必ず約束を果たしてくれるひとだから。

 叶うのを待つ間も、幸せなんです。とても。