「まーたり先輩っ」



今日も来たか。


短くスポーツ刈りにされた爽やかな印象の男の子が、にこやかに私に微笑む。


こういうところが好青年だと女の子だけでなく、先生方からも評判なのだな。


整ったその顔が笑顔を作ると、端から黄色い悲鳴が上がる。



「先輩、好きです!」


「ごめん、無理」



彼の横をすり抜けて、私はカフェテリアから退出した。


残念なことに、その笑顔は私には効かない。



「んんんんー! まーたり先輩今日もクールビューティ! さいっこう!」



背後から雄叫びが聞こえたのは無視だ。


私、馬渡紫乃(まわたり しの)は先ほど声をかけてきた、黙っていれば爽やかイケメン長谷部くんに付きまとわれている。


きっかけはほんの小さな出来事だったのだが、その小さな出来事のせいで私の静かで穏やかな生活は一変した。



「もう先輩ったら、置いてかないでくださいよぉ」


「いや、長谷部くんと一緒に教室まで行くつもりはないから。教室違うし」



基本的に私に近寄る男は、こういう風に冷たく言い放つと私から離れていく。


だけど。



「あああ、キツめな先輩ステキ!」



どうやらこやつ、長谷部 覚(はせべ さとる)はメンタルがすこぶる強いらしく、いつも私に立ち向かってくる。


しかも、異様に上手いウインクを私にバチバチ送りながら。