もう、『森は嫌だ』と生まれ育った場所を離れた
何度も何度も休んでは進み、
進んでは休む
やっとついた都会。
でもそこの日差しと乾燥にいじめられる
僕は優しい誰かに拾われた
僕の部屋は森と似ていた
木のにおい、土のにおい
なんだか、懐かしかった
似ていても、違うのだ
帰りたい、そう頼んだら
僕を拾ってくれた優しい人は
森に帰してくれた
元気でね、とその人は言う
お礼は言ったの?と土が言う
「……っ、ありがとう!」
その人は振り返らずに微笑んだ
お帰りなさい、と木々が言う
これはある夏の小さなクワガタのお話______