『どうだ?
俺の心にはちゃんと、テメェをぶっ殺すって書いてあったか?』

トキユメはいつもの口調でラプへと歩み寄る。
しかし、その背中からでも感じ取れる殺気に私は唾を呑んだ。

『フ、フフ…。
驚いたわ。ここまで精神を殺意で満たせる人間がいるなんて…』

流石のラプも思わず後ずさる。

『若いのに、まるでドラゴンのような気性だな』

そう言葉を発したのは、登場以来ずっと無言だったドラケンだった。

『すっこんでろオッサン。
俺はこのクソ女に用があるんだからよ』

トキユメは伝説の英雄にも全く物怖じしない様子で依然ラプを睨みつけ続ける。

『悪いがそうもいかんな。
ラプよ、退ってろ』

ドラケンはラプを庇うようにしてトキユメの前に立ち塞がった。
流石は歴戦の戦士だけあって威圧感が半端ない。

『そりゃ、あれか?
オッサンが先にぶっ殺されたいってことか?』

これは不味い。歯止めが効かなくなってる。
早くトキユメを止めないととんでもないことになる…!



『待ったぁーーー!!
何このギスギス感!!』

張りつめていた緊張の糸を切ったのは意外にもラファールだった。

『何やってんだよ二人とも!
僕は、こんな形になるのは望んでない!』

こんな形?

私とミゼリアとトキユメの視線は一斉にラファールへと注がれた。



『ラファール、どういうこと?』

私の問いかけにラファールは白々しく目をそらす。

『私たちの目的は、貴女たちの魔王討伐の旅をやめさせることよ。
仲違いしてくれるかと思ったんだけど、上手くいかなかったわね』

観念した様子で話すラプの言葉に、私たちは首をかしげた。

『ラファール殿は、お前たち3人が危険な魔王討伐に出向くことを酷く憂いておられるのだ』

ドラケンがそう言うが、やっぱり意味が分からない。

『いや…ってか、何で私たちのことをラファールが心配するの…?』

私は気まずそうな表情をしているラファールに再び問う。

『アーリッヒちゃん、ラファールは貴女のことを……』

『わぁああああーーー!!!』

突然、ラプの言葉を掻き消すようにラファールが大声を上げた。

『私のことが何だって?』
『どうした?漏らしたのか?』

それを見て私とトキユメが怪訝な表情を浮かべる。

『とにかく!!
貴様らのような愚民にチョロチョロされては、僕たちの華麗なる魔王討伐計画の邪魔になるんだ!!
とっとと本国に帰るがいい!!』

ラファールはマントを翻し声高々にそう言った。

『はぁ?そうはいかないわよ!
貴方たちの計画がどんなのかは知らないけど、私たちは私たちのやり方でやらせてもらうんだから!』

私は負けじとラファールに詰め寄る。

『お…おい、そんなに近づかれたら僕…あの…』

『何よ!何か文句あるんならハッキリ言いなさいよ!
私たち3人は、貴方たちなんかに絶対負けないんだから!!』

私が食い下がると、何かを恥ずかしがるようにラファールは顔を赤らめた。
そういえば、大学時代にもラファールは私が近づくとこうやって俯いてしまい元気が無くなっていたっけな…。

どうやら私は彼に相当嫌われているようだ。


『お、そうだ!
丁度3人ずついるし、どっちのパーティーが強いか勝ち抜き戦で勝負しよーぜ』

はい?
ちょっとトキユメ…?
アンタは突然何を提案してるの?

私とラファールはポカンとした表情でトキユメを見つめた。

『やめておけ。
俺がいる以上は女3人では勝負にならん』

このドラケンさんの全く仰る通りだよ。
こんな猛者に勝てる可能性があるのなんて、ジャンケンくらいしかないよ。

『あ?馬鹿かオッサン。
今さっき俺たちのリーダーであるアーリッヒが言ったこと聞いてなかったのか?
俺たちはテメェらなんぞには負けねぇんだよ。
よ~く覚えとけ、魔王討伐に向かったパーティーの中で最強は……俺たちだ!!』


すみません、私が言ったのやっぱ無しにできませんかね?

つーか、最強とか言ってないのに!!