この大陸には、魔王が現れる遥か太古より人類と争いを続けている種族がある。

それは[ドラゴン]と呼ばれている生物で、その獰猛で凶悪な生物は人間を見つけては敵視し襲いかかって来ていた。

そんな中…
バルデ帝国にはそのドラゴンをたった一人で狩りまくっている男が居た。
彼はドラゴン狩りを生業とし、代々皇王に遣えている家系の出身だ。

自らが倒したドラゴンの骨で造った剣と鎧を身につけ勇敢にドラゴンに立ち向かう彼を、人々は尊敬の意を込めてこう呼んだ…


『ドラケン様!!』

目の前に立つ、白色の鎧を身につけた男にミゼリアが歓喜の声を上げた。
私はといえば彼女とは違い、あまりにも突然の光景にただただ目を丸くすることしかできなかった。

『ハーッハッハ!
どうだ凄いだろ!あの伝説のドラゴンキラーだぞ!!
この男にかかれば魔王を討伐することなど造作もない!!』

ラファールが得意気に笑う後ろで、ドラケンは竜の頭蓋骨をかぶりクールに表情を隠している。

『そして、極めつけはこのラプだ!』

ドラケンの横に立つミニスカートから長い脚を出している色っぽい女を、ラファールが意気揚々と指差す。
だが、不思議なことにこのラプとかいう女、ラクガキのようなふざけた目が描かれたアイマスクをつけているのだ。

『ラプは、見つめたモノの心を読み取れる特殊な眼を持っているのだ。
なので、普段はこのアイマスク姿というわけだ』

確かに、こんな格好をした女性がずっと傍に居て心を読んできたら、年頃の男子(ラファール)はたまったもんじゃない。

『フフ…貴女、可愛らしい子ね』

突然ラプがラファールより前に出て私に顔を近づけて来た。

『え…?』

私が狼狽えているとラプはアイマスクを外し私の目を見つめてくる。
驚くことに、その瞳には黒目の代わりに金色の魔法陣が刻まれていた。

『フフ…怖がらなくて良いのよ?
この目で、貴女の心を裸にしてあげるわ。
さあ、じっくり見てあげるから全部を晒け出しなさい…』

ラプの手が私の頬に触れ、ゆっくりと撫でる。
私は何かに囚われたかのように、その魔法陣の瞳から目が離せない。

その時だった…。

『アーリッヒさんに気安く触らないでもらえますか?
オ・バ・サ・ン』

ミゼリアがラプの手を掴み、私から引き剥がしたのだ。

途端に私は腰が抜けたようにその場に座り込む。

『あら、自分でも見れない仲間の心を読まれるのが妬ましいのかしら?』

ラプは不敵な笑みを浮かべながらミゼリアから手を振りほどいた。

『いや…貴女のその感情は仲間…というよりも、恋人を思う気持ちに近いわね。
フフ…このアーリッヒって子が大好きなのね貴女…』

ラプがそう囁くと、ミゼリアの頬が微かに赤らむのが見えた。

『でも可哀想なことに、貴女のその感情はアーリッヒちゃんから内心気持ち悪がられてるわよ?』

は…?

『ちょっと!アンタ何デタラメ言ってんのよ!!』

私はラプに掴みかかろうと立ち上がったが、ラプはその手を簡単にいなした。

『残念ながら、そういう感情に任せた突発的な行動でさえ、私には読まれてしまうのよ』

ラプは、黙ったまま俯いているミゼリアに追い討ちをかけるように更に続ける。

『それにデタラメじゃないわ。
だって、私はアーリッヒちゃんの心を見たんだから。
まあ、同じ仲間でも隠しておきたい感情の1つや2つはあるわよ』

いや、デタラメだ。
だって私は、私の事を大好きでいてくれるミゼリアが大好きなんだから。
この女は心を読めるんだから、私のこの感情は分かっているはず。
なのに、敢えて嘘をついているのだ。

目的はわからないが、ミゼリアを傷つける為に。

許せない…。


『おい、若作りババア。
心を読めるとか凄ぇな。
ちょっと俺の心も読んでくんねーかな』

突然、トキユメが私たちの間に入って来た。
そんな彼女を見た瞬間、私は思わず背筋が凍りついた。

声のトーンはいつもと同じなのに、その目つきといったら凶暴な獣そのものだったからだ。

今まで一緒に過ごした中で、こんな雰囲気のトキユメを私は見たことがない。