放課後の人気がない廊下を歩く。第二校舎の三階、一番右端に追いやられたような小さな部室は私が部長を務める軽音部だ。
 部室の前にはまだ人が一人も揃っていない。いつものことながら、私が職員室から持ってきた鍵をドアの鍵穴に差し込んだ。
 私の他には4人の部員がいる。皆それぞれ個性的な人達ばかりで、その中でも私は唯一の常識人だと自信を持って言える。その理由は後になればすぐにわかるだろう。

 もうすぐ10月になるけど、まだまだ気温の高い毎日が続いているおかげで、部室の中にはもわっとした空気が立ち込めていた。熱い。エアコンつけよう。


「おっす、サクタ。あれ?他の奴らは?」
「まだ来てないよ」


 私に続いて部室にやって来たのは、同級生のワタヌキだった。部内では私に次いで常識人、アンド学級委員をこなす爽やかイケメン。軽音部のポジションとしてはベースと時々ボーカルを担当している。因みに私はドラムだ。
 だが残念なことに軽音部員にはことごとく弄られまくっているので常識人度は私の下なのである。

 ワタヌキとは一年の頃にこの軽音部で知り合って以来、クラスは別々だけど部活をやっているおかげかそこそこ仲のいい男友達だったりする。


「あっついな、この部屋。エアコンつけた?」
「いや、今つけようとしてるんだけど……あれ?これどうやればいいの?」
「あーそうだった……サクタって機械音痴だったよな。もういいよ、俺がやるから」
「機械音痴って、ちょっと分かんなかっただけじゃん」
「はいはいムキにならない、自分の実力は現実として受け止めような」


 そう言ってポンポンと私の頭をまるで小さな子供をあやすように撫でると、スルリと私の手からエアコンのスイッチを抜き取った。