「こんにちは」

差し出された診察券を受け取り、今日の予約者のカルテを置いている棚を見る。
そこから、該当者のカルテを取り名前などを確認していたら、あることに気付く。

「内村さん、健太くん今月初めての来院なので保険証はお持ちですか?」

「あ、すみません。そうでしたね」

財布から取り出した保険証を受け取り、カルテと照らし合わせ、それが終わると保険証を内村さんに返却した。

内村さんの息子の健太くんは虫歯の治療中だ。
予定では今日でそれも終わる。


「小松さん、お願いします」

私はカルテを歯科衛生士の小松里奈に渡した。

「健太くん、こんにちは。歯は痛くなったりしてない?」

「うん、だいじょうぶだよ」

小松さんに名前を呼ばれた健太くんは笑顔でお母さんと一緒に診療室へと入っていった。

ここは個人経営の『牧村ファミリー歯科』。

ファミリーというだけあって、子供の患者が多い。
だから、待合室もぬいぐるみやジグソーパズル、ままごとセットなど子供が好きそうなおもちゃを置いている。

牧村徹院長を筆頭に歯科衛生士の人などを合わせて七人のアットホームな職場。

私は元々、アパレル関係の仕事に就いていたんだけど、いろいろあって辞めた。

まぁ、たいした理由じゃない。
よくある人間関係のトラブルで、我慢できなくなっただけ。