『唯香、お前、見合いするって本当なのか?』

そんな電話がかかってきたのは、仕事が終わり帰っていた時だ。
珍しい人からの着信に首を傾げながら出たら開口一番、お見合いのことを言われた。

バス停までの距離を歩いていたけど、思わず立ち止まり話す。
他の歩行者の邪魔にならないよう歩道の隅に寄る。


「何よ、そんなことを言う為にわざわざ電話してきたの?暇人だね、お兄ちゃん」

呆れながらため息をつく。

お兄ちゃんとは年に一度、お正月に実家に帰った時に会うぐらい。
ましてや、電話なんて滅多にしない。

私が人間関係で悩んでいる時は、頻繁に連絡していた。
困っている時だけ頼って、あとは全くお兄ちゃんに電話しないとか、自分でも薄情な妹だなとは思うけど……。


『暇人なんかじゃないって!唯香のことが心配だったんだよ。で、どうなんだ?』

「ん、お見合いはするよ。心配してくれるのはありがたいけど、お母さん強引だからね」

『それはそうだけど、見合いなんかしていいのか?』

「いいのかも何も、我が家の決定権は常にお母さんでしょ」

私が大学二年の時に、お母さんはお父さんと離婚した。
それからは、お母さんが朝も夜も働いて私を大学卒業まで面倒をみてくれた。

そういうこともあり、今回のお見合いは避けられないなと思ったんだ。