次の日の午後、懐かしい人物に会った。
それは、ホントに偶然なんだけど。
私が働く牧村ファミリー歯科は水曜日は午前まで、午後からは休診になっている。
仕事を終え、バスに揺られ駅に向かった。
駅周辺にはデパートやお店がたくさん立ち並んでいる。
待ちに待った給料も入ったし、久々にショッピングでも楽しもうと歩いていたら、不意に名前を呼ばれた。
「唯香っ!」
振り返ると、さっきすれ違ったような気がしたサラリーマンがこちらを向いている。
え、誰だろう。
じっとその人を見ていると、どこか見覚えのある顔をしていた。
「唯香だろ。俺だよ、俺!西田陸だよ」
「西田陸って……りっくん?」
「あぁ。久しぶりだな」
満面の笑みで私を見る。
その笑顔が昔の記憶を呼び戻す。
見慣れないスーツ姿で、少し猫っ毛のブラウンの髪が風で揺れる。
顔はあの時より大人びている。
「久しぶり過ぎて、一瞬誰だか分からなかったよ」
「そうか?俺は唯香だってすぐに分かったけどな」
「その割には、さっきすれ違ったよね?」
「そうだっけ?」
鼻の頭を掻きながらあさっての方向を見てとぼけた振りをする。
その姿に思わず笑みがこぼれた。
仕草は昔と変わっていなくて、当時のことが鮮明に蘇る。
りっくんこと、西田陸は私の初めての彼氏だ。